Share

第20話 急展開

Author: あるて
last update Last Updated: 2025-12-18 09:20:06

 一度わたしの収録を見学した我が姉妹たちはすっかりはまってしまったのか、以降暇があれば必ず見に来るのが当たり前になった。

 わたしも配信を始めてから家族と過ごす時間が減ってしまっていたのを気にしていたので、ずっとそばにいてくれてその後感想なんかも言ってくれるし、みんなとのコミュニケーションが取れるようになって大歓迎だ。

 ただ、見学の条件として宿題や課題を必ず済ませることという条件を付けたので、高校や中学の宿題と違ってより分量のある専門学校の課題をこなさないといけないより姉は時間のかかる課題の時は泣く泣く部屋にこもっている。

 そんな中で一番熱心に見学に参加しているのがかの姉。

 映像編集に興味があるみたいで、わたしが編集しているのを見ているだけでなく独学でいろいろ勉強していたようで最初はいろいろとアドバイスをしてくれたりしていたが、そのうち編集を肩代わりしてくれるようになっていった。

 それがまたわたしの編集するものよりも出来栄えが良かったりするもんだから、そのへんのセンスがわたしではかの姉にはおよばないんだろう。

 ま、なんでもかんでも自分で完璧にできるわけでもないから、得意な人が手伝ってくれるならその好意には喜んで甘えておくことにしよう。

 視聴者からも【最近編集がうまくなったけど誰かに手伝ってもらうようになった?】って聞かれるんだけど、わたしの技能が向上したとは思ってくれないのね。

 今までのわたしの編集ってそんなにひどかったのかな……。やっぱり物事を美しく見せることに関しては女性の方が優れているのかもしれない。普段からの美意識の違いとでも言うべきか。

 そうやってわたしの動画の質も上がっていき、生配信のやり方にも慣れてきたせいかチャンネルを創設して2か月もたち、梅雨の季節に入るころには登録者が10万人を超えた。

 当面の目標は100万人だからその10分の1とは言え、短期間でここまで増えたのは十分に快挙と言えるし嬉しい。

 10万人が一カ所に集まったらどれくらいの規模になるかなんてなかなか想像も難しいくらいの数字だ。

 Vtuberの個人勢でここまで勢いよく登録者が増えていくのは珍しいようで、10万人突破記念の生配信のときにキリママを始めいろんな人からお祝いと感嘆の言葉をいただくことができた。

 人気が出るということはわたしの歌とダンスが認められているということでそのことが何よりも嬉しい。

 それに芸能界にいたころよりも配信活動をしている今の方がたくさんの人々に支えられて活動をすることができているんだと実感できて、その人たちからの祝福もとてもありがたい。

 最初期から応援してくれているこの人たちのおかげでさして苦労することなく収益化を達成することもできた。この人たちの応援が土台にあっての10万人だと思えば感謝しかない。

【これだけの歌唱力とダンスだし10万人はまぁ当然ともいえるな。おめでとう!】【おめでとう!だけどワイ的にはもっと早く達成していてもおかしくなかったまである】【企業勢だったらもっと伸びがすごい人とかいたりするけど個人であっさり10万人とは大したもんだよ】祝福の声とともにもっと人気が出てもいいはずという意見も多数あり、心から応援してくれているという気持ちが伝わってきてすごく励まされる。

 確かに子役の頃は何もしなくても人気が一気に爆発したから企業のプロモーション力というのはバカにできないものなんだろう。

 でも、わたしはもうあの汚い世界に戻ることはできれば避けたい。

 わたしの人気とお金だけに用がある大人たちの薄っぺらくて不自然な笑顔と心にもないあからさまなご機嫌取りやおべっかに囲まれて最悪の居心地だったあの世界を一度経験してしまえば、よっぽどの理由でもない限り誰が好き好んであの世界に戻りたいと思うものか。

 あの頃に比べたらこうやってわたしの事を大切にしてくれる人たちに応援の言葉や祝福、賞賛をリアルにもらうことができて、それに対して直接お礼を言える今の環境の方が心を通わせられているようでどれだけ幸せな事かとしみじみ感じてしまう。

「みんなありがとうね。わたしはもちろんもっと上を目指して地道に活動していくよ。そのうち誰もが認めるような大ヒット曲をバンバン作って世界に届けてみせるよ!」

【さすがゆきちゃん、視野はもう世界に広がってるのね】【でもそれが納得できるだけのパフォーマンスを持ってる】【どれだけ有名になってもわたし達が応援するゆきちゃんは変わらないけどね】こうやって変わらず支えてくれるファンが励ましてくれるというのは本当にありがたい。

「どんなに有名になっても最初からこうやって支えてくれてるみんなの事はいつまでも大切にするからね!」

【ゆきちゃん本当にみんなの名前覚えてるもんね】一度でもコメントをくれた人の事をわたしはみんな覚えている。

「せっかく応援してくれているファンの人のことは極力覚えておきたいからね。特に初期の人たちは完璧に覚えてるよ!」

 本当は初期だけじゃなくてみんなの事を覚えてるんだけど、やっぱり最初から応援してくれている人はどうしても特別扱いしてしまうのは仕方ない。

「次は20万人突破でまた記念配信しようかな。夏本番前に達成出来たらいいな」

【伸びもよくなってるし20万はすぐだろ】【100万人もそんなにかからないんじゃね?】なんていう楽観的な意見もいただけるけど。

「さすがにそこまで甘くは考えてないよ~。もっと自分を磨いていろんなところで存在感を増していかないと今の伸びも鈍ってくると思うし」

【その謙虚さもゆきちゃんらしい】【かわいい】【でももう今までけっこうな曲数を聞いてきたけどゆきちゃんの歌声には毎回驚く】【そう!声帯何個あるんだってくらい声質変わるんだよね】【違う人が歌ってるんじゃないかと思うくらいだ】いろんな勉強や特訓をしている時期に声帯の開き方を工夫して声質を変えて歌う方法もいろいろ試行錯誤してきた、その成果だ。

「がんばっていろいろ研究してきたから声には少し自信があるよ~!普通の歌い方だけじゃなくてどうやったら可愛くなるかとかかっこよくなるかなんてことをたくさん特訓してきたからね」

【その探求心はさすが】【本当に歌が好きなんだね】【音域も広いもんね】子役を引退してから一度挫折しかけたけど、諦めずに続けてきてよかったと思える。

「音域は長年のボイトレのおかげかな。地声裏声はもちろん、ヘッドボイス、ハイトーン、ホイッスルボイスまで出るようになったからね!低音域はちょっと弱いのが悩みどころなんだけどね」

【いや十分だろ】【人間楽器でも目指すのかw】いや楽器て。

「でも低音でかっこよく歌う女性シンガーとか憧れるんだよね。声変わりしないし地声がこんなんだから今更男性シンガーのような歌声は目指してないけど、低音ボイスとかしゃがれ声なんていいなーと思うもん」

【全部制覇したら無敵】【今でも十分だけどね】【動画が投稿されると毎回どんな歌声が聴こえてくるか楽しみ】なんていうお褒めのコメントの中に【何か新しい企画でもしたら爆発的にリスナー増えるだろうな】というのが見えた。

 何かすればもっと伸びるかもという意見はもっともで、今はまだいいけど登録者数が増えると伸び率も鈍化してくるのでここらで何かテコ入れをしたいところだ。

「新しい企画かぁ。わたしの他の特技と言えば料理とかあるけど、クッキング動画ってけっこうあふれてるよね」

 そう簡単にいいアイデアが出てくるほどわたしの頭脳も都合よくはできていない。

【ゆきちゃんの手料理は見るより食べたい】【どんなのを作るか見てみたい気もするけど】わたしの料理は特別な人しか食べられないんだよ。特別な人って言っても家族だけど。

【そろそろ誰かとコラボとかしてもいいんじゃない?】なるほど、もっと早く気づくべき手があった。

 今まで1人でやっていても楽しすぎて人の力を借りるという基本的な戦略を失念していた。

「わたしとコラボしたいって言ってくれる人なんているのかな。わたしは歌が専門だから誰でもいいってわけでもないしね」

 Vtuberは星の数ほどいるけど、その中でわたしと共通したジャンルで活躍している人はどれだけいるのだろうか。【ゆきちゃんは誰かこの人とコラボしてみたい人とかはいないの?】と聞かれると思い当たる人は1人いる。

「この人と歌いたいなって人はいるけど、駆け出しのわたしとは登録者数が違いすぎて、こんな新人とコラボなんてしても向こうに何のメリットもないんだよね。すごく歌がうまくて憧れてる人なんだけどね」

【それって誰の事?】そりゃ聞きたくなるよね。でも憧れている人の名前を言うのってなんか照れるな。

「みんな知ってる人だと思うけど彩坂きらりさん」

 登録者数180万人を超える大人気Vtuberだからわたしのチャンネルに来るような音楽好きで知らないって人の方が珍しい。

【企業勢かぁ】【難しいかもね】みんなの言う通り、企業勢と言うのは企業がバックアップしてくれる代わりにいろいろと制限があって個人勢みたく自由にコラボしたリは難しい。

 特に身バレにつながりそうなことに関してはとても厳しいらしい。そのへんのセキュリティ意識が比較的低い人の多い個人勢とコラボするのはリスクがあるからだろう。

【彩坂きらり:わたしもゆきちゃんとコラボしたいです】唐突に打ち込まれたコメント。

「え?」

【本人?】【マジでか】わたしの疑問をコメントが代弁してくれた。

【彩坂きらり:もちろん本人ですよ。証拠お見せしますね】すぐにURLが貼られ、クリックしてみるときらりさんの公式SNSの画像でまさに今この時点のやりとりが投稿されている。間違いなく本人だ。

「え~~~~~~~!?」

 今まではわたしがリスナーを驚かせてばかりだったのに初めてわたしが驚かされてしまい、ちゃんとした日本語が出てこない。

「きらりさんがこんな新米の動画を見てくれてたんですか!いや、それよりきらりさん企業勢なのに勝手にコラボOKしちゃって大丈夫なんですか!?」

【彩坂きらり:わたしも最初の方からゆきさんの歌声に魅了された1人ですよ】【やっぱゆきちゃんすごい】【トップグループの人にも認められるなんて】というコメントが並ぶ。

「ふにゃ~……。ヤバイめっちゃ嬉しい……」

 感極まって思わず変な声が漏れてしまった。どうしても表情が緩んでしまう。

【彩坂きらり:コラボの件ですけど、わたしくらい会社に貢献してるとある程度のワガママは通るので問題ないと思いますよ】さすが大人気Vtuber。

「本当に大丈夫ならこちらこそ是非お願いしたいです!うそ~これ本当に現実だよね?ドッキリとかじゃないよね?」

【落ち着けw】【今ほっぺつねってみたがしっかり痛いぞ】あなたがつねっても意味ないでしょ。【彩坂きらり:ドッキリなんかじゃないですよw詳細はゆきさんのSNSにメッセージ送りますので】試しにほっぺをつねってみた。

 痛い。

 夢じゃない、現実だ~!

「はい!メッセージお待ちしてます!ほんと今でも信じられない。今晩眠れるかなぁ」

【彩坂きらり:きっとゆきさんよりもわたしの方が楽しみな気持ちは大きいですよ。ゆきさんの歌声に心酔してますから】きらりさんがそこまで楽しみにしてくれてるなんて……。

【よかったね、ゆきちゃん】【初コラボにいきなり大物だ】【さすが我らがゆき氏】他のみんなからも祝福と賞賛の声が多数寄せられて10万人記念動画はわたしにとって思わぬサプライズとなった。

 配信が終わってSNSをチェックしてみると本当に個人メッセージが届いていてドッキリという可能性も消えた。

 メッセージにはきらりさん個人の連絡先も記載されていてドキドキ。展開が急すぎてちょっと戸惑うけど憧れの人とつながれたということに感動。

 配信終了したらメッセージではなく電話連絡が欲しいとのことだったのでさっそく教えてもらった連絡先にかけてみる。

 1コールもしないうちにつながってビックリ。ずっと待っていてくれたのかな?

『ゆきさんですよね?きらりです。さっそくかけてきてくれてありがとうございます。こうやって直接連絡できるなんて感激です!』

 あのきらりさんが興奮気味の声で話している。本当に楽しみにしてくれていたようで嬉しい。

『はい、ゆきです。わたしの方こそこうやってきらりさんと直接お話しできて光栄です。あとわたしの方が年下なので敬語はいらないですよ』

『じゃあお言葉に甘えて。わざわざ電話くれてありがとうね。さっそくコラボの件なんだけど、もう会社には連絡入れて許可をもらってあるの。あとは日程と場所さえ決めればいいだけなんだけど、その打ち合わせのために一度直接会って話したいんだけどゆきさんはどこら辺に住んでるのかな?』

『さすが仕事が早いですね、もうそこまで話が進んでるとは思いませんでした。今住んでいるのはS県のK市です』

『あら、隣の市だわ。けっこう近いね。じゃあ明日T駅まで出てこれない?そこならお互いに交通手段も不便じゃないし』

『そこならうちから電車一本で行けますね。明日は一日空いてるので大丈夫ですよ。時間はお任せします』

 みんなのご飯は事前に作っておけばいいし、何時になっても大丈夫だろう。

『それじゃ明日の13時でも大丈夫かな。改札を出て右の道路に出るとファミレスがあるんだけどそこで待ち合わせでどうかな?わたしが先に着いたら彩坂で席をとっておくね。ゆきさんが先に着いたらなんて名前で呼びだしたらいいのかな?』

 きらりさんがハンドルネームで予約しているのだからこちらもそうする方がいいかな。

『13時で大丈夫です。わたしは一ノ瀬で予約することにしますね』

『一ノ瀬……雪……?あの?』

 小声でボソボソ言ってるからよく聞こえないけどバレたかな?一ノ瀬雪はわたしが子役時代、ピーノちゃんをやっていたころの芸名だ。

 ピーノちゃんの名前の方が有名で芸名の方はそこまで知名度はないはずだけど知ってる人は知っているだろう。

 今更だけどわたしのチャンネル名、安直すぎたかな?まぁ学校でもバレてないし、きらりさんにならバレても言いふらしたりなんてことはしないから問題ないだろう。

『まぁいいや。うふふ、男の子と二人きりでなんてまるでデートだね』

『デ……!もうからかわないでくださいよ』

 こちとら生まれてこのかた女の子とデートなんて一度もしたことがない。そんなことを言われたら意識して思わず赤面してしまう。

『あは、冗談冗談。今からもう明日が楽しみ。それじゃ明日13時にT駅前のファミレスでってことでよろしくね!』

『こちらこそものすごく楽しみです!よろしくお願いしますね!』

 そうして通話終了。通話してるうちにけっこう時間がたってしまったのでみんなもう部屋に戻ってるだろうし、出かける報告は明日の朝でいいか。

 リビングに戻ると両親はすでに帰ってきて晩御飯も自分たちで用意していたので、明日は出かけることだけを報告してわたしはそのままお風呂に入って明日の準備をすることにした。

 初めて会うわけだし男の子らしい恰好をしたほうがいいか、いつも通りかわいい恰好をした方がいいか悩んだけど、どのみちこれから最低でも何度かは会うわけだからいつものコーディネートでいいか。

 ということでちょっと気合を入れたガーリーな服で完全武装。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第162話 時は満ちた

     少しだけ心の扉を開き、みんなへの正直な想いを語ったあの旅行から数か月。 間近に迎えた文化祭の準備に追われ、わたし達生徒会は多忙な毎日を過ごしていた。 夏休みから引き続き行っていたダンスの練習は大詰めを迎え、もういつでも人前に出せるレベルに来たと思う。あとは細かい部分を微調整すれば完成だ。 クラスでもみんな受験勉強の合間を縫って何やら一生懸命に作り上げている模様。当日はお手伝いをするつもりだけど、何が出来上がっているのか心配な面もある。 体育祭といい、毎年イベントのたびに遊ばれているような気もするからなぁ。 そしてある意味きっぱりと拒否を突きつけた姉妹たちについてなんだけど、ハッキリ言って何も変化がない。 相変わらずのゆきちゃんスキーだし、スキンシップもそのまま。油断すると身の危険を感じるのも相変わらず。主にあか姉が危険。 最悪距離が開いてしまう可能性もあるんじゃないかと思っていたから、以前と変わらず接してくれるのはありがたいんだけど、これで本当に大丈夫なのかと心配にもなってしまう。 ひよりには将来を考えてないように見えるって言われたけど、本当は誰よりも将来を考えてるんだよ。姉妹たちがいつまでも健やかに、心穏やかに過ごしていけるように神経を砕いてる。だからこそわたしの存在感が強すぎてはいけないんだけど。「ゆき~今日の晩御飯なに~? ピーマンは勘弁な~」「ゆきちゃん、今度はこんな編集方法を編み出したんですけど、確認してもらえます?」「ゆき、今夜は寝かさない」「ゆきちゃん! 新しい曲のダンス教えてよ!」 こんな調子で、あいも変わらずわたしを中心に回っている現状。途中でおかしなのが混じってたけど無視。 せっかく意を決して厳しいことを言ったのにこんな調子でいいのかな。あとピーマンはちゃんと食え。「なんだか馬耳東風って感じだなぁ」「誰が馬だコノヤロ」 わかってんじゃねーか。「言いたいことは分かるぞ。でもな、何度も言ってるようにそんな簡単に変わるような気持ちなら、最初から弟を好きになったりしてねーんだよ。人を見る目はあるくせになんで色恋に関しては壊滅的なのかねぇ」 壊滅的って。そこまで?「だけどみんなには悲しい思いをしてほしくないんだよ」「ばっか。誰かに恋をするってことはいいことばっかりじゃねーんだよ。時には傷つき、時には泣いて、酸い

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第161話 愛しているからこそ

    「う~、頭いちゃーい」 ぐわんぐわんと頭の中で鐘が鳴り響く。ついでにちょっと気持ち悪い。 昨日はおいしいジュースを飲んでなんだかいい気分になってたけど、なんでこんなことになってるんだろう。「ゆきちゃん、昨日のことは何も覚えてないんですか?」 かの姉が心配そうに覗き込んできた。姉妹たちはまだ化粧や身支度に勤しんでいる。化粧の必要がない男の子でよかった。 そんなことはない。わたしに忘れるという概念は存在しない。 全部覚えている……けれど、結構まずいことをいってしまったなぁ。わたしを解放してください、か。 わたしはいったい何から解放されたいんだろうか。 みんなからの想い? 決まっているこれからの運命? それとも……この人生全てから?「ゆきちゃん? 具合が悪いならもう少し横になっていていいですよ。着替えだけここに置いておきますから、ゆきちゃんの荷物はこっちでまとめておきますね」 わたしの荷物の中にあるはずの着替えがなんで用意できるんだろう? と思ったら女性用だった。 そう言えば三日分の衣装はみんなで持ってきてるんだったっけ。わたしが用意した服の意味がなかったな。「ゆきちゃんの荷物、わたし達が持ちますからね」 ギクッとした。わたしの荷物……。昨日言ったことの意味も入ってるのかな。「どうしたんですか? その状態じゃ、大きな荷物を抱えるのは大変でしょう? 一人では大変でもみんなで分担すれば軽いものですよ」 穿ち過ぎか。だけど、みんなで分担すれば軽いもの……。 わたしの抱えてるものも、みんなで抱えれば少しは軽くなるのかな。そんなこと、出来るはずもないけれど。「ううん、大丈夫。自分の荷物は自分で持てるよ。それより昨日の後片付けをしないと」「そうやって無理ばかりしなくていいんですよ。甘えられるときは甘えてください。でないとわたし達も寂しくなってしまいます」 そうやってわたしのことで喜びを感じてくれるのは嬉しいんだけど。 どうすればみんなの執着心をわたしから逸らすことが出来るんだろう……。「ゆきちゃん、あなたの抱えているものが何かは分かりませんし、無理に聞こうとは思いませんけど、少しはわたし達のことも信用してはくれませんか?」「ん……」 決してかの姉たちの事を信用していないわけではない。むしろこれ以上ないほどに信頼感を持っている。 だけど

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第160話 心のタガ

     ホテルの部屋でお菓子パーティー。「それじゃ、女子会始めるぞ~」「「「いえーい!」」」 女子会じゃねー! ここに! 男の子が! いますから! 忘れんな!「まぁまぁゆきちゃん、見た目だけの話だから」 そうか、見た目だけならまぁ。 とでも言うと思ったか?「はい、ゆきちゃん」 かの姉にチョコレートを口に放り込まれた。うん、美味しい。「ゆき、餌付け」 違うわ。 まぁ甘いものを食べると大人しくはなるんだけど。これって餌付け? コンビニでかの姉の見つけたフルーツジュースが美味しそうだったので、いろんな味のものを買い込んできた。 わたしが最初に飲んだのはシャインマスカット。渋味のないブドウの味が爽やかで、あっという間に飲み干してしまった。おいちい。 ひよりもいよかんをすっかり飲んでしまっている。そんなに美味しかったのか。柑橘系好きだもんねぇ。 あか姉はパイナップル。普通のジュースなんだけどあか姉が飲むと独特だなぁと思ってしまうのはなんでだろう。 でも不思議なことにこのジュースを飲んでると、塩気の物がほしくなるんだよね。なんでだろ。 梨味のジュースを飲みながらより姉の買ってきたビーフジャーキーをガジガジ。普段はこういうものをあんまり食べないんだけど、体が塩分を欲しているような気がする。「ゆきちゃ~ん、なんだか気持ちよくなってきちゃった~」 そう言ってひよりがしな垂れかかってきた。なんか最近こういうシチュエーションになったことがあるような気もするけど、まぁいいか。楽しいし。 梨味のジュースもすぐに飲み終わり、次に手に取ったのは白桃。桃の味ってなんだか優しくて懐かしい気持ちになるよね。「こんなおいしいジュース初めてかも~。地元にも売ってるのかなぁ」 缶を眺めて商品名を確認。なるほど、日本のプレミアムということで産地の名前が記載されている。わたしが今飲んでる白桃は福島県産なのね。 震災から復興してる街を応援するためにもどんどん飲まないと。「わたしなんだか熱くなってきたかも。少し脱ごうっと」 女装して出かけていたのでインナーに来ていたのはキャミソール。「あははは。男の子なのにキャミソールって! おかしー!」 自分の姿が妙におかしくなってしまい大爆笑。なんだか気分もいいし、下も脱いじゃおう。「あははは! キャミにドロワーって! どこ

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第159話 最後の夜

    「ふわぁ~気持ちいい~」 フラフラのより姉。「あははは! よろこさん酔いすぎです~」 かの姉、あんたもだよ。誰だよろこって。呂律が回ってねー。 わたしがより姉に肩を貸し、かの姉にはあか姉が肩を貸している。ひよりにはお水と万が一に備えてのエチケット袋を用意させてある。「真っすぐ歩け酔っ払いども!」「あたしは真っすぐ歩いてるぞ~。道が曲がりくねってるのが悪いんだぁ」「そうですよねぇ。S字クランクが連続してます~。教習所ですかぁ?」 一般道だよ。道もこれ以上ないくらい真っすぐだよ。 酔っ払いどもをどうにか電車に押し込み、ホッと一息。Suicaくらい自分で出せっての。 電車内は人でごった返している。地元の球団のユニホームやメガホンを持った人が多いのは試合でもあったのかな? そういえば今年は成績が良くて、優勝も視野に入ってるんだっけ。野球はあんまり詳しくないから分かんないけど。「ちょっとより姉。ちゃんと立って。電車内で座り込んだらダメだって」 足に力が入っていないのか、放っておくとずりずりと沈み込んでいってしまう。「ゆき~だっこ~」 人がいっぱいの車内で何言ってんだ。「あれ、YUKIちゃんやん」「ほんまや。生で見たらめっちゃ可愛い」「やっぱり姉ちゃん達と仲ええんやなぁ」「YUKIちゃんって男の娘やろ? ハーレムやん」 ハ、ハーレム!? そ、そんな風に見えるのか? アラブの石油王じゃあるまいし……。「そうかな。どう見ても百合にしか見えやんよ」「確かに! 百合の園やわ」 ですよねぇ。知ってました。「そういやユニバのナイトショーに出てたんやろ? うちも見に行きたかったわぁ」「ほんまに? それは行きたかったな。またやってくれへんのかな」「急遽決まったみたいやし、無理ちゃうかな」 漏れ聞こえてくる情報からすると、先日のナイトショーは結構な評判になっているようだ。 またやって欲しいという声はありがたいけど……。「ゆきちゃんよかったね。好評だったみたいじゃん」「……そうだね。みんなが楽しんでくれたならよかったよ」「また、やりたいんじゃないの?」「ううん、そんなことないよ。あの日一日で十分だよ」 わたしは本当に嘘つきだ。本当はステージに立ってみんなに歌声を届けたい。 だけど、わたしにはその機会は永遠に訪れることはないんだ。「ゆきちゃ

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第158話 昭和四年創業の老舗串カツ店

     スイーツ巡りを堪能した後、腹ごなしも兼ねてあちこちを散策して回った。 普段はあまり行かないゲーセンでリズムゲーをしたり、ボーリングやビリヤードで体を動かして消化を促す。 三時間もする頃にはお腹が空いてきた。「もう腹減ったのかよ。どんだけ胃腸が丈夫なんだ」「健康優良児と言ってくれるかな」「まぁいいけどよ。それで、何を食べたいか決めてあるのか?」 今日出かける前に、それぞれ何を食べたいかを決めておくようにと言われている。 わたしもいろいろ探してたんだけど、さすが大阪。食べたいものがいろいろありすぎて困っちゃう。「わたしはまだ決めきれてない……」「なんだ、いつも率先して決めるゆきにしては珍しいな」 だってどれも美味しそうなんだもの。「わたしはお好み焼きが食べたいです」「またかよ! 楓乃子は昼にも食べてただろうが。どんだけ粉もんが好きなんだ」 わたしも一口もらったし、お好み焼きはどっちかというとお昼ごはんにでも食べたいかな。「もつ鍋」「相変わらず選択が渋いな、茜。たしかに美味そうだな」 もつ鍋は候補に入ってなかったけど、確かに美味しそう! 悩みが増えてしまった。「わたしはね! 串カツが食べたいなー!」 それそれ! 大阪といえば串カツだよねー。でもてっちりとか、居酒屋で土手焼きなんかも美味しそうなんだよね。「ひよりはあたしと同じだな。それで、ゆきはどうする? 今のところ串カツに二票だが」「うーん、うーん」「どんだけ悩んでるんだ。ちなみに候補はいくつあるんだ?」「居酒屋てっちりもつ鍋串カツかすうどんイカ焼き中華肉吸いたこ焼き……」「待て待て待て。いくつ出てくんだよ。呪文みたいになってるじゃねーか」 体がいくつも欲しい。「ゆきの候補にもあったし、二票入ってるし、串カツにするか。ゆきも別に文句はねーだろ?」 あの呪文をちゃんと聞きとってたのか。より姉もやるな。「もちろん! ソースは二度漬け禁止だからね」「それくらい知ってるっての。全体をひたひたに漬けて食べるんだろ」 より姉のことだから何度もじゃぶじゃぶ漬けるんじゃないかと心配だったけど、それくらいは知っているようだ。「それじゃ、さっそく向かおうか! お店はあたしが探してあるからよ」 おぉ、より姉がリーダーシップを発揮している。 さすが長女、頼もしい。 わたし達は

  • 雪の精霊~命のきらめき~   第157話 幸福のスイーツ巡り

    「うん、美味しそう!」 ずらりと並んだ多種多様な食べ物。 普段あまり口にすることのないいろんな料理を前にして、期待を隠せないわたし達。 わたしが注文したのはボタニカリー。 鶏がらスープに玉ねぎ、野菜、スパイス、ハーブが煮込まれていてスパイシーで美味しいし、副菜がアートのように盛り付けられている。 より姉はシンガポールチキンライス。 かの姉はお好み焼き。 あか姉はキーマカレー。 ひよりはハラミ重と黒毛和牛フィレステーキ トリュフがけ。「ステーキはみんなで食べようね」 そう言って購入しようとしているのはいいけれど、お値段がべらぼうに高い!「ちょっとひより、お小遣い大丈夫なの?」「そろそろなくなりそうだから、ゆきちゃんに借りないとダメかも」 そう言って苦笑いするひより。苦しいなら無理してステーキなんて注文しなくていいのに。「だってみんなでシェアするもの欲しいじゃない」 そんな可愛らしいセリフを言われては止めることもできない。 もう、みんなのことを考えてくれるのは嬉しいけど、やりすぎだよ。「そのステーキはわたしが買うから。ひよりはこの後に行くデザートでお金を使いなよ」「そんな悪いよ。わたしが勝手に買おうとしてるだけなんだし」「みんなのためでしょ? わたしもみんなと食べたいから買うだけだよ」 みんなで食べるものを末っ子に負担させるというのもなかなかに目覚めが悪い。 ここは一番経済力のあるわたしが出してもみんなから異論は出ないだろう。「ゆきちゃん、ありがとう」「いいんだよ。どれも美味しそうだね」「うん!」 元気よく返事をするひより。ほんとに良い子だ。 フィレステーキも含め、みんなでシェアした料理を堪能してお昼ご飯の時間は過ぎていった。「さて、いよいよ今日の本番だね!」「昼飯食ったばっかじゃねーか。もう食べ歩きすんのか?」「もちろん! 時間は有限、甘いものは別腹! 時間の許す限り食べつくすよ!」 すでに候補は三つほど見繕ってある。あとは観光がてらにあちこち探し回るのもいいだろう。 ということで最初に向かうはハービスプラザ四階にあるチョコレート専門店。 わたしはショコラパフェ、ひよりはチョコラータケーキ、あか姉はタルト・オ・ショコラ。 より姉とかの姉はハーブティーのみ。「せっかくスイーツを食べに来てるのにもったい

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status